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October 05102008

 夕焼けて玩具の切符は京都行き

                           西宮陽子

焼けは夏の季語ですが、個人的にはむしろ、秋が似合っている感じがするのです。それはたぶん、日の暮れ方の寂しさが、寒さへ向かう季節を連想させるからなのだと思います。一日を終えて、夕焼けを顔いっぱいに浴びながらその日の終点にたどり着く。この句を読んでいると、そんな時の動きが、空間の移動に自然に結びついてきます。とはいうものの、「玩具の切符」というのですから、この移動は遊びの中の出来事でしかありません。作者は、縁側に置きっぱなしにされた子供の遊び道具を見ているのでしょうか。夕焼けがきれいに映し出すその中に、薄っぺらな紙に電車の切符を模した玩具があります。見れば行き先は京都。かつての人生で、京都に行った日のことなども思い出していたのかもしれません。「切符」という言葉を見るだけで、ちょっとうれしくなるのはなぜなのでしょうか。この句を読んでいると、胸がどこかしら、弾んでくるのです。『俳句鑑賞450番勝負』(2007・文芸春秋)所載。(松下育男)




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